「後悔先に立たずではあるが、あの日あの飛行機に乗らなければと思うと、悔やんでも悔やみきれない思いだ」
　
　ただならぬ雰囲気で始まりましたが、自他共に自信を持って認めるのびたソよりも食えない駄コラムの、幻立喰・ソで間違いありません。とは言え、さらっと笑い飛ばすわけにもいかない意味深な一文、あるサイトにあった「後悔先に立たず」の用例です。
　ミニスカCAだ！　とばかり全身に力をみなぎらせてスカイマークに搭乗したら、普通のCAだったという状況ではないでしょう。確かに悔しいですが……脳裏をよぎるのは飛行機事故。あの日あの飛行機に乗って墜落……でしょう。しかし、よくよく考えてみれば墜落事故後に後悔できるということは、生きているということです。飛行機の墜落事故で生存する確率はかなり低いと思います。「後悔先に立たずではあるが〜」などとのたまっている場合ではないのです。死んでしまったら後悔も出来ないのです。ひとつしかない命は、大切にしないといけませんという教訓でしょうか。

　用例問題はひとまずおいて、注釈にいきます。
「すんでいることを後から後悔しても取り返しがつかないので、事前に十分注意しなさいという教え。」とありました。一見なんの問題もないのですが、用例にあてはめると「自分が乗る飛行機が墜落してから後悔しても取り返しがつかないので、事前に十分注意しなさい」となり、ちょっとおかしなことになります。よもや機長ですら墜落すると解って飛ばすわけではないでしょうから、ずぶの素人が事前に十分注意しなさいといわれても、なにをどうしていいのやらかなり難易度の高い問題です。そんな心配をしなくても飛行機に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.0009%くらい（らしい）。かけを頼んで、肉、わかめ、かき揚げ、きつね、月見トッピングの大盛りが出てくるようなものです。ちなみに自動車の場合は0.03％だそうで、たぬきを注文したのに、かき揚げが出てくるくらいの確率でしょう（無論両方共に確証なし）。
　ということはかなり低い確率をダブル体験した奇跡の用例なのです。もっとありがちな例でもよかったのではないかと老婆心ながらも思うのであります。例えば「後悔先に立たずではあるが、あの日あの立喰・ソに入っていればと思うと、悔やんでも悔やみきれない思いだ」とか。

　
　一生懸命やっていらっしゃるサイトに難癖をつけようなんていうつもりはさらさらございません。後悔先に立たず系用例ならば、幻立喰・ソなら以下のごとく枚挙にいとまがありませんよと、自慢にもならない自慢をしたかっただけなのです。あしからずご了承くださいませ。

●浅草六区の小分（第48回）
●未だに志村坂下か志村坂上か解らなくなる志村坂上の竹風亭（第45回）
●北千住のコーワの店名の由来(第43回）
●お茶の水の満松庵にあった謎の張り紙の真実(第42回）
●亀戸のびっくりそばの由来（第39回）
●鷲津の壷屋(第36回）
●渋谷のはがの2階(第33回）
●神保町の利根とむぎなわの関係と明科のとうじそば（第30回）
●急行アルプスのサハシ165(第27回）
●新橋は日本亭の上機嫌+おいしい(第22回）
●三田の福原の朝そばセットの怪(第19回）
●亀戸に愛知の謎（第15階）
●中野の赤い風船の写真（第9回）

　ざっと思い出しただけでも七福の大盛り級。タイトルを「後悔ウオッチング」と変えた方がいいのではないかと思うわけはありません。もちろん、ちびっ子に大流行中のあれのパクリです。半年後には、パクリ元がなんだかわからなくなっているかもしれません。それこそ大後悔になります。

「マジだりーっんすけど」と、地べたに座りっぱなしのだらしのない後悔を、これだけずらーっと並べれば、「目の前に未訪問の立喰・ソがあれば、とりあえず食え。事前に十分注意するまでもなく、ひたすら食らえ」と問題はあっさり解決するのです。が、そんな簡単なことすらできていない自分に、呆れるやら、驚くやら、それでもそんな自分がちょっとかわいいやら。と、特に必要のない前振りも終わったところで本題です。

　松の内も明けていない今年の1月4日。三が日はお休みの立喰・ソばかりで、ぼちぼち禁断症状が出始めた頃、中野以西には未訪問店がわんさかある未開の地、中央線沿線に出撃しました。

　
　さすがは日本で最初に電車運転を始めた中央線。中野の先からびしーっと一直線で突き進む筋の通った中央線です。その昔のお子ちゃま向け鉄道本には「甲州街道沿いの宿場町が、汽車が通ると火の粉で火事になるとか、宿屋がすたれるみたいな反対運動が起きたので、やむなく町を避け一直線になりましたとさ」というようなことが書かれていましたが、この手の話は近年の調査研究によればほとんどが都市伝説のようです。中央線にご乗車の際は、思い出してひとり悦に入って下さい。2020年度からグリーン車が2両も連結されますし。今回もためになりましたね。こんなすてきな中央線中野以西の駅近所では、三鷹、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、武蔵境、武蔵小金井、国分寺、立川、日野、西八王子の駅付近に大チェーン店系列以外の立喰・ソがほとんど各駅停車状態であるのです。それなのに高円寺のKと三鷹のS以外は未開拓というていたらく。残り11店もあります。えきめんや完全制覇の恐怖、じゃなくて教訓から、せいぜい3軒、無理して4軒、5軒目でリバースというチキンなストマック（しかも鶏肉は嫌い）ですから、後悔が立たないで大人しく座っていてくれるよう、事前の十分な下調べが必要です。すでに敗北宣言のようですが、新年早々鼻からソの悲劇は慎まなくてはいけないのです。
　熟慮に入るはるか手前で、選考委員（一人）が迷うことなくばっさり切ったのは、荻窪の天亀そばでした。チェーン店ぽいし、ソよりもラの方が有名らしいし、繁盛しているようなのですぐに幻立喰・ソになることはないだろうと、総合的かつ合理的な判断でした。

　
　さて、胃を決して（←自分でもちょっとうまいこと言ったと思います）出撃したその結果、武蔵境はすでに幻立喰・ソ、国分寺、西八王子、日野は休業日、立川の3店のうちWINSにある立喰・ソは、メインレース前に軍資金を使い果たしそうになっているおっちゃんがクダをまく一見さんにはエベレスト級に敷居の高い立ち飲み屋さん状態でしたから見て見ぬふりでスルー。ということで阿佐ヶ谷、武蔵小金井と立川の2店の計4店を効率よく訪問することができました。荻窪の天亀ただ一店を除いて…。

　数日後、坂崎師匠からのメールをいただきました。師匠は毎月駄コラムを読んで感想や情報を送ってくださるのです。ありがたいことです。ありがたや、ありがたやとメールを拝見すると……察しのいい皆様ならお気づきでしょう。天亀のみ実名ですから（一応現役店はイニシャルにするというおぼろげなルールがあったりなかったり）。はい、そのとおりです。師匠からのメールには「荻窪の天亀そばが、幻になって残念です」と。閉店の理由も明かされていました。さすが師匠です。しかもチェーン店ぽいからパスしてしまった浅はかな心の内すっかりをお見通しのように、荻窪の天亀はフラッグシップ店であり、ここの味があのお店やこのお店に受け継がれていると荻窪の天亀への愛もしっかり記されておりました。わはははは、えーんえーん。

　なんということでしょう。この狙い澄ましたような、後悔先に立たずのドラマチック展開は。いったいなんと説明したらいいのでしょう。といいつつ、ここまでだらだら説明していますが。
　ものすごくタイムリーなネタになったので、ある意味では、冒頭の用例のような奇跡的な展開といえるかもしれません。ちょっと自分が怖いです。